【おすすめ図書】『笑うな』筒井康隆 : あらすじ・ネタバレ無し

*この記事では、筒井康隆氏のショートショート集『笑うな』を読んだ感想と、『笑うな』に収録されている作品のうち5作品のあらすじと簡単な感想を紹介しています。

笑える本を紹介したいと思います。

筒井康隆の『笑うな』

とにかく、おじさん二人が笑う、笑う。

そんな『笑うな』を含めた小話みたいな話が34話も入っているショートショート集です。

文庫本で、厚みはちょうど1センチ。

笑いたくなったら、バッグからサッと取り出して、1,2話ちゃちゃっと手軽に読める。

『笑うな』に収められている34話の中から、面白いと思う話を抜粋して、あらすじと感想とあわせて紹介していきたいと思います。

『笑うな』筒井康夫著

1980年初版発行

巻末に掲載されている横田順彌氏(作家)から寄せられた解説を見てみましょう。

もし、万一、この作品集がおもしろくないという人があったら、それは誰のせいでもない。あなた自身が悪いのだ。反省してもらいたい。この本を読んでおもしろくない人間なんて、この世にいるはずはないのだから。

『笑うな』 巻末解説文(横田順彌)より引用

私はおもしろいと思います!

『笑うな』

本のタイトルになっている話。

《あらすじ》

友人から電話で呼び出された主人公の男。何の用事か聞いても、友人は教えてくれないのです。

男は友人と喫茶店でおち合い、どうしたのかと尋ねます。それでも、友人はモジモジして言葉を濁します。

そのうち、友人が「あのう、実は、」と言ってクスクスと笑い出しました。

《感想》

気づけば、読みながらおじさん二人と一緒になって笑っています。何が可笑しいのかよくわからないのに。

『墜落』

1ページ半の短い話

《あらすじ》

一人の男が岸壁から誤って眼下の海に落ちてしまうという話。落下していく過程で、生き残りをかけて、男があれこれ策をめぐらせます。

《感想》

話を読んでいて途中で気づくのです、あれ?落下しながらそんなに色々考える時間あります?と。

人生、岸壁から落下する体験をすることはあまりないと思います。

ですが、他のことで「こういうパターンある、ある」で、思わず苦笑しました。

『流行』

2ページ半の短い話。ある男の朝の出勤前のシーンから話が始まります。

《感想》

出だしから男の奥さんの態度は、もはやDV。その上、玄関で靴を履いている男のところにやってきた実の子供二人の態度も暴力そのものです。

眉間にシワを寄せながら話を読み進めていたら、下の子供がおもむろにスリッパで……

《感想》

テンポよく話が進みます。

コントみたいな絶妙なタイミングに吹きました。

『屋敷ぼっこ』

「癒しとは、こういうことか」と学んだ話。少しホロリとします。

《あらすじ》

新庄先生は女子高の教師。ある日の授業で出欠を取っていると、自分の教室に「座敷ぼっこ」がいることに気づきます。

「座敷ぼっこがいるな」という新庄先生の呟きを聞いた生徒たちは、座敷ぼっこについて教えて欲しいと新庄先生にせがみます。

授業をそっちのけで話をねだる生徒たち。その様子を見て目を細める先生。

新庄先生は可愛い生徒たちの要望に応えて、座敷ぼっこの話しを聞かせることにしました。

「先生のいた山奥の村には、座敷ぼっこがいた」

子供たちが集まって遊んでいると、最初にいた子供の数より、いつの間にか一人増えている。

誰が後から加わったかのかとみんなで顔を確認するが、結局、全員最初からいたということになる。

新庄先生は生徒たちに言います。

「この教室は、一学期は確かに51人だった。ところが、今見ると、52人になっているんだ」

どよめく生徒たち。みんなで屋敷ぼっこが誰なのか探ろうとしますが、わかりません。

あるとき、新庄先生は学校帰りにいつも立ち寄る公園でベンチに座り一服していました。

そこへ、教え子の稲垣英子が通りかかり…

《感想》

オカルトおばさんなだけに、こういう不思議な話は大好きです。

ですが、ただ不思議なだけじゃないのが、この『座敷ぼっこ』の話のツボといえるでしょう。

この新庄先生には、ある家庭の事情があります。

それが物語の中に一文でさり気なく盛り込まれているのですが、その一文の効果がすごい。

たった一文によって、教え子とのたわいもない会話が、新庄先生にとっては、ささやかながら日々のかけがえのない癒しになっていることがわかります。

癒しというのは特別で非日常的なもののようで、実はありふれた日常の中にいくらでも転がっているのかもしれません。

『悪魔を呼ぶ連中』

《あらすじ》

そこそこ大きい会社の社長と専務と常務が自社の倒産を防ぐために、悪魔に魂を売ることに決めました。

悪魔に魂を売るまでしないと会社を救えないのかと嘆きながら、悪魔を呼ぶ儀式の支度をしています。

ただ、この悪魔を呼ぶ儀式には、いろいろな材料が必要です。

何が必要で、それぞれどのくらいの分量が必要なのかが、社長にも専務にも常務にもよくわかっていません。

正しい材料と分量がわからないから、何度やっても悪魔ではなくて”違う人物”が出てきてしまいます。

そのうち社長が嫌になって専務と常務にある提案をしますが、結果、確実に会社を救えただろうビッグチャンスを逃すことになります。

《感想》

会社経営の「あるある」を面白おかしく描いている作品。

チャンスを逃したのは、命令した社長のせいなのか?それとも、現場で動いていた常務のせいなのか?何もしなかった専務はどうなのか?

読み終わったあとにしばらく考えました。

まとめ

筒井康隆氏の『笑うな』

非日常の世界が描かれているのに、自分もどこかで体験したような気がする不思議なストーリーが満載です。

筒井康隆氏のショートショートを呼んでいると、笑いも感動も不意を突かれて突然やってくる。突如、一文にドンと一撃される感じ。

最後に、この『笑うな』の巻末に寄せられている横田順彌氏の解説をもう一度紹介して終わりたいと思います。

もし、万一、この作品集がおもしろくないという人があったら、それは誰のせいでもない。あなた自身が悪いのだ。反省してもらいたい。この本を読んでおもしろくない人間なんて、この世にいるはずはないのだから。

『笑うな』- 巻末解説文(横田順彌)より引用

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